通常、企業が積立金を用いて欠損を補填する目的は以下の通りです。
1. 財務諸表の改善
積立金による欠損補填は、貸借対照表上の累積欠損を解消し、財務状況を健全化させることができます。これにより、投資者や債権者からの信頼を高めることにつながります。
2.配当能力の回復
《会社法》の規定により、累積欠損がある企業は、通常、株主へ利益を配当することができません。積立金で欠損を補填した後、企業は配当する資格を得ることができます。
2024年7月1日に施行された《会社法》第214条では、資本剰余金及び登録資本金で欠損を補填する方法を認めました。旧会社法では税引後利益と利益積立金でしか欠損補填を認めていませんでしたが、当該規定により、欠損補填の手段が大幅に拡大されました。
一方、2024年7月1日に施行された《会社法》では、登録資本金を用いた欠損補填に対して、多くの制限が設けられており、資本剰余金による欠損補填については、「順序が利益積立金による欠損補填の後」とのみ規定されています。資本剰余金は形成ルートが多様であり、また一部の資本剰余金は実質の資産投入を必要としないため、資本剰余金を欠損補填に充てることは、財務データの粉飾や配当を拡大する新たな手段となっています。
新たに公布された《財政部による会社法・外国投資法施行後の財務処理に関する問題の通知》(財資〔2025〕101号、以下「通知」とする)では、企業が積立金(特に資本剰余金)を利用した欠損補填に対して、具体的な制限及び拘束を設けました。
一、補填順序の制限
《会社法》第214条第2項
積立金を用いて企業の欠損を補填する場合、まず任意積立金及び法定積立金を使用しなければならない。なおも補填することができない場合、規定に基づいて資本剰余金を使用することができる。
通知の規定:
先に任意積立金、法定積立金の順序で補填し、補填し切れない場合、以下の行為による純増加した資本剰余金の金額を上限額として損失を補填することができる。
欠損補填の順序に関する規定については、《会社法》では資本剰余金の補填が利益積立金の補填の後であると規定されていることに加え、通知ではさらに欠損補填の順序を2種類の利益積立金に制限しています。つまり、先に任意積立金で補填を行わなければ、法定積立金を使用して補填することはできません。
二、欠損補填可能な金額の制限
通知の規定:
積立金で欠損を補填する場合、会社の監査後の前年度個別財務諸表(2024年度以降のもの)に基づいて、未処分利益のマイナスの期末残高がゼロになるまでを限度額として、補填することができる。
累積欠損による貸借対照表上の未処分利益がマイナスになる場合を除いて、通常、企業にはもう一つのケースが存在します。前期まで黒字だった企業が、直近欠損が発生したものの、全体的な未処分利益は依然としてプラスの状態になっています。この場合の直近の欠損が補填できるかについては、《会社法》に明確な規定はありませんが、実務上では慣例として認められているケースがあります。
しかし、今回の通知では「欠損補填には、監査後の財務諸表の未処分利益のマイナスの期末残高がゼロになるまでを限度額とする」と規定されており、このような補填方法を完全に否定するものになっています。未処分利益がマイナスである場合にのみ、積立金による欠損補填が認められ、かつ補填限度額がゼロになるまでの金額となっています。これにより、積立金で新しい欠損を補填することで、財務諸表の未処分利益を増加させ、配当可能額を拡大させるような従来のやり方は通用しなくなりました。
三、欠損の補填可能な資本剰余金の制限
通知の規定:
以下の行為による純増加した資本剰余金の金額を上限額として損失を補填することが可能です。
1. 貨幣または現物、知的財産権、土地使用権、持分、債権など貨幣で評価可能、且つ法律に基づいて譲渡可能な非貨幣財産による出資を受け入れること。
2. 債務の代位弁済、債務免除の方法により、または貨幣、現物、知的財産権、土地使用権の寄付による資本性の投入を受け入れること。
上述の行為により増加した会社の資本剰余金のうち、国家の関連規定に基づき、特定の株主に専属する、または用途が限定された資本剰余金は、権利保有者の同意を得ない限り、欠損補填に使用することができません。付帯条件により増加する資本剰余金の金額に変動が生じる可能性がある場合は、金額が確定した後に欠損を補填しなければなりません。
通常、資本剰余金の形成ルートは以下に分類されます。
1.株式払込剰余金(または株式発行差金): 投資者の実際出資額が、登録資本金に占める持分を超える部分。
2.寄付の受け入れまたは債務免除: 企業が受け取った現金寄付、非貨幣寄付または債権者による債務免除。
3.補助金の入金: 政府特別補助金がプロジェクト完了後に資本剰余金に振り替えた部分。
4.外貨換算差額: 為替レートの変動により生じた外貨財務諸表換算時の差異。
5.資産評価益: 国有企業の改革、合併・再編等に伴う資産評価益が資本剰余金に計上された部分。
6.その他の特殊事情: 持分投資の調整、ストックオプションのインセンティブの差額など。
通知の規定によれば、出資によって形成された資本剰余金(即ち、株式払込剰余金)及び資本性の投入によって形成された資本剰余金のみが、欠損補填に使用できます。通知は欠損補填可能なルートを全て列記しているため、その他のルートから形成された資本剰余金はいずれも欠損補填に使用することができません。
この規定の本質は、企業が実際に受け取り、かつ資本性を持つ資本剰余金にのみ欠損補填の資格があります。一方、会計処理や評価などによって生じた、実質的な資金流入がない、または金額が変動する可能性がある資本剰余金はこの範囲に該当しません。
その上で、通知では以下の特定の資本剰余金も除外しています。
1. 特定の株主に専属する、または用途が限定された資本剰余金は、(権利保有者の同意がある場合を除く)欠損補填に使用することができません。
2. 付帯条件のある資本剰余金は金額が確定してから使用しなければなりません。
このような一連の制限により、企業が財務データの粉飾や配当の拡大を目的に、会計処理や評価を利用して資本剰余金を増加させ、欠損を補填することを防止しています。
四、プロセスの増設による拘束
通知の規定:
(二)会社が積立金をもって欠損を補填する場合、積立金による欠損補填案を策定し、欠損の状況、欠損補填の原因及び欠損補填に用いる積立金のルート、金額と方法等を説明し、董事会決議を経た上で、株主会(又はこれに準ずる権力機構。以下、総じて「株主会」という)に提出し、審議を受けなければならない。株主は法令に基づき、質疑及び表決を行います。株主会の審議で承認されなければ、会社は積立金で欠損を補填してはならない。
通知の規定:
(三)資本剰余金を用いて欠損を補填する会社は、株主会で資本剰余金による欠損補填の決議した日から30日以内に、債権者に通知又は社会向けに公告しなければならない。会社の債権者は、その債権リスクを合理的に評価する。ただし、金融機関が金融監督部門の関連規定に基づいて情報開示を行い、本条の要求は適用されない。
(四)資本剰余金を用いて欠損を補填する会社は、関連する情報開示義務を履行する際、財務諸表の注記の「未処分利益」項目において、資本剰余金を用いて補填した欠損額を個別に開示しなければならない。
通知の規定では、積立金(利益積立金及び資本剰余金を含む)による欠損補填について、強制的な内部決裁プロセスを定めました。欠損補填案を策定し、欠損の原因、積立金のルート及び具体的な金額等を説明し、董事会決議を作成して株主会に提出し、表決を行わなければなりません。株主会で否決された場合、補填は禁止されます。このプロセスの要求は、利益配当に関するプロセスの基準に相当します。
同時に、通知は資本剰余金による欠損補填行為に対して、債権者保護体制も導入しています。決議後の30日以内に債権者へ通知し、または社会向けに公告を行わなければなりません。財務諸表の注記において、資本剰余金により補填した欠損額を個別に開示しなければなりません。この仕組みは、減資による欠損補填に近しいです。
五、遡及調整の要求
通知の規定:
2024年7月1日に《会社法》の施行以来、会社の積立金による欠損補填が通知の要求を満たさない場合、本通知の要求を満たすよう調整しなければなりません。
通知は2025年6月9日に作成され、2025年6月27日に公布されました。通知の末尾には「本通知は印刷・公布日から施行する」と明記されています。原則として、通知の規定は2025年6月27日から発効されます。
ただし、積立金による欠損補填に関しては、通知では2024年7月1日まで遡及する旨の特別な注記が記載されています。したがって、2024年7月1日から2025年6月27日までの間、企業が積立金による欠損補填を行った場合、通知の要求を満たすよう調整しなければなりません。各条項の要求から、具体的な調整には以下の要点を考慮しなければなりません。
1. 欠損補填の順序が通知の要求を満たさない場合、通知が定めた順序に従って各積立金の欠損補填額を改めて決めなければなりません。
2. 資本剰余金が通知に定められている欠損補填に使用できる制限の条件に適合しない場合、当該補填を取り消さなければなりません。
3. プロセス上、通知の要求を満たしていない場合、関連手続きを追加で行わなければなりません。
まとめ
以上をまとめると、財資〔2025〕101号の通知は、企業の積立金による欠損補填に対する影響は以下の通りです。
1.柔軟性の制限
欠損補填について、資金プールを自由に選択することができなくなり、厳格な順序とルートに基づいて実施しなければならないため、企業の財務調整の余地が縮小しました。
2.コンプライアンス・コストの上昇
董事会・株主会決議、債権者への通知、特別開示などのプロセスが新しく追加され、時間とプロセスのコストが増加しました。
3.資本剰余金の濫用抑制
専属または用途が限定された資本剰余金の使用が禁止され、関連会社間の取引や特別条項を利用した欠損補填操作が防止されました。
4.債権者保護の強化
公告の要求により、債権者は事前に債務リスクを評価することができ、企業が秘密裏に欠損を補填することを制限しました。
もし上記の内容にご興味をお持ちの方、または他に議論したいテーマがございましたら、ぜひ当社の公式アカウントをフォローの上、メッセージをお送りください。皆様からのご連絡を心よりお待ちしております。今後のコラボレーションを楽しみにしております。